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【 コラム 】

無戸籍児童は修学旅行に行くことができたのか [ 4 ]

DATE:2015年11月8日

はやる心のまま封書を開けてみると、Y氏に送っていた管轄同意書にY氏の署名捺印が施されて入っていて、さらに、丁寧な字で手紙も書き添えられていた。
その手紙には、Y氏の半生が綴られていた。

当時は若気の至りで、風を切って日々を過ごしていたこと、
そのなかで多くの人に迷惑をかけていたこと、
とりわけS君のお母さんには取り返しのつかない仕打ちをしていたこと、
S君のお母さんがいなくなった後、どうしてもS君のお母さんのことがあきらめられず、金に飽かせて、何件も興信所や探偵事務所を雇ったこと、
探偵事務所のなかには尋ね人と再会できるテレビ番組と提携していたところがあって、番組にも取り上げられて、それでもS君のお母さんを探し出すことができなかったこと、
その後ある事件をきっかけに服役し、出所後に暴力団から完全に足を洗って堅気となったこと、
それから別の女性と再婚をして子どもができたこと、
その子も今では社会人になっていること
などが綴られていた。
そして、S君のお母さんが、事情も告げずに子どもの元から居なくなる人ではないのは分かっているから、今回はよほどの事情があるのだろうと察するし、せめてもの罪滅ぼしに、S君のために自分ができることは何でもするので、遠慮なく言ってもらいたいということが、自宅の電話番号とともに丁寧な字で書かれていた。

このY氏からの手紙を受け取って、すぐにY氏に電話をかけて、京都までの交通費をお渡しできないが、ぜひとも京都の家庭裁判所の調停手続きに来てもらいたいことをお願いし、間髪をいれずに、京都の家庭裁判所に親子関係不存在の調停を申し立てて、できるだけ早い調停期日を調整して入れてもらった。

調停期日当日、家庭裁判所の申立人待合室のなかで、施設長と二人で調停が始まるのを待っていた。
手紙と電話で、事前にY氏と、やりとりこそしていたものの、実際に京都まで足を運んでもらえるのか、自信が持てなかった。
自分をY氏の立場に仮に置いたとしても、はたして赤の他人のために、そこまで時間と費用をかけて自分がすることができるのか、わからなかった。
待合室での時間がいつもより長く感じていて、DNA鑑定になったら、手続きの時間と費用がさらにかかってパスポートが間に合わないかもしれないなどといった話を施設長としながら、いつまで待っても調停委員から声がかからない苛立ちを努めて隠そうとしていた。

しばらくして調停委員が、われわれの待機していた申立人待合室に入ってきた。